山拓落選運動とトンデモ地方議員

 
これまでに何回か言及したコモリンファンで産経脳のR○Mさんが、Yahoo意識調査の改憲板でこんなことを言っていた。

古代ギリシャには「陶片追放」という制度がありました。こいつはダメだという人物の名を陶器のかけらに書いて投票し、一定数あると、一定期間、国外追放される制度でした。今の日本にあれば、「ヤマタク」などと印刷されるのでは?「落選させる運動」が、これほど大規模に広がっている議員って、いましたっけ? 08/6/23(月) 午後 10:38 [ R○M ]

人権擁護法案」の絡みもあって、福岡の、彼の選挙区では、次の選挙には、保守支持層が「共産党」に一票を入れようという動きもあるそうです。ヤマタクの自民はダメ、民主の候補も、大したことがない。残る選択肢は、とりあえず「人権擁護法案」には反対している「共産党」と言うことだそうです。 08/6/23(月) 午後 10:45 [ RA○ ]

なんと、そんなに大きな動きが起こっているのか。やっぱりここのところの拉致問題がらみかなと興味を持って少し調べてみた。

R○Mがこんなことを発言したのはどうやら夕刊フジ山拓落選運動を行っているサイトを紹介して少しだけ話題になっている*1からのようだ。

そのサイトというのが、ここ。山崎拓を落選させる福岡市民の会という会を結成して街中でのビラ配りなどの情宣活動も行っているらしい*2

さて、このサイトを開くといきなりおどろおどろしい山拓の似顔絵が目に飛び込んできてびびらされるのであるが、その絵の横にこう書いてある。

私たちは、支那北朝鮮のイヌのごとき言動を繰り返す山崎拓を郷土・福岡の恥であると考え、 一日も早く国会から去っていただくために落選運動を行います。

ああ、やっぱりそっち系の人か。どうやらこの会の発起人は「新風20代の会」の発起人でもあるらしい。それにしてもサイトのトップやバナーに「支那北朝鮮のイヌのごとき」なんて文言を堂々と載せている時点で頭が悪すぎる。こういう言葉が与えるネガティブイメージとか一切思いつかないんだろうね。「私は差別用語を喜んで積極的に使う人間ですよ」と宣言しているのだということがまるでわかっていない。まあ、こんなこと新風関係者に言っても意味がないか。

ところで、こういうことをいうと、「支那」は元々は差別語ではないなんて反論するやつがいることは予想できるけど、差別用語というのはどのような意図で使われてきたのか、どのような意味を暗に含ませて使われてきたかということが重要なのであって、元々は差別的な言葉ではなかったなどと言っても全く正当化はできない。

ではこの会はどのくらいの規模なのだろうか。サイトに列挙されている賛同者の数は昨年12月14日時点で56名*3。ここのところの報道などで人数は増えているだろうけど、あんまり「大々的」とは言えないのではないだろうか。賛同者名は原則ハンネらしく、いろいろなハンネが並んでいるのだけれど、その中に「荒川区議 小坂英二」という一風毛色が違う名前があるのが目に留まった。よくよく見てみるともう一人、「伊藤純子」という名前もある。もしかしてトンデモで有名なあの伊勢崎のジャンヌ・ダルク*4本人なのだろうか。肩書きが記されていないから断言はできないけど。


で、こういうサイトに堂々と肩書きつきで名前をだすとはどのような人物であろうかとおもって調べてみた。彼のブログを見つけたので、どのような主張をしているのか記事を読んでみた。6月19日付の「親子で靖国神社へ 7月5日」というタイトルの記事では次のようなことを言っている。

さて、5月23日の閣議で、国公立学校が主催して靖国神社の訪問を禁じた昭和24年の文部事務次官通達が「失効」していることを、今更ながらですが明確に認めました(報道記事)。こんな馬鹿げた通達が今まで教育現場を縛っていたこと自体が異常ですが、こうして「失効」が明確になった今、学校として「公に殉じた方のことを学び、そのことを忘れず感謝の気持ちを持つ」という当たり前のことがなされていない現状を変えるべきです。その為に、学校で靖国神社を訪問することから始めるべきと思います。

また、5月8日付の「早稲田大学でコキントウへ抗議!*5」という記事では、先日の胡錦濤来日時の早稲田大学の門前での抗議活動*6に参加したことを報告している。最前列で頑張っていたけど、生まれて初めて警察による排除を経験したそうだ。同日穴八幡神社において「チベットの独立と自由を支援する草莽全国地方議員の会」「チベットの自由と独立を支持する会」「誇りある日本をつくる会」などが主催の抗議集会にも参加したらしい*7

小坂区議はやはり想像した通りの人物であるようだ。それにしてもこういう地方議員はどれくらいいるのだろうか。僕がこのような連中の存在を意識したのは本宮ひろ志の「国が燃える」連載中止騒動のときだった。この問題で「集英社問題を考える地方議員の会(代表:犬伏秀一大田区議、事務局長:松浦芳子杉並区議)」(参照)というトンデモ集団が集英社に圧力をかけたのは有名な話だろう。右翼系では最大であろう日本会議地方議員連盟参照)曰く加盟議員は1000名で、その内正会員は568名(内訳:北海道27、東北24、関東125、北越38、近畿94、東海39、中国73、四国33、九州115)らしい。この数をどう評価すればいいのかわからないが*8、右翼議員は全国に満遍なくいるようだ。ちなみに小坂区議も会員だった。

まあ、日本会議といってもいろんな人がいるのは想像がつく。単なる右翼から歴史修正主義系トンデモ右翼まで幅広い人材が揃っているのだろう。そこで、小坂区議が参加している、歴史修正主義と深く関わっているであろう二つの地方議員の会をピックアップして分析してみた。一つ目は昨年のアメリカ下院議会の慰安婦決議に抗議文(参照:PDF)を出した「慰安婦問題の歴史的真実を求める日本地方議員の会」(名簿:PDF)で、もう一つは上で出てきた「チベットの独立と自由を支援する草莽全国地方議員の会*9(参照)である。

一つ目の「慰安婦問題の歴史的真実を求める日本地方議員の会」は総勢129名。各地域の内訳は、関東87、関西14、甲信越5、東海7、東北3、中・四国10、九州3である。日本会議の会員の分布とは大きく異なり、関東に集中している(67%)のがわかる。それと、北海道は一人もおらず、関西や九州も日本会議の会員数と比べるとあまりにも少ない。関東はトンデモ議員の巣窟なのか。ちなみに、参加議員数が多い議会トップ5は、1位に6名で神奈川県議会、横浜市議会、豊島区議会、足立区議会が並び、5位に4名で東京都議会が入っている。豊島区議会などは定数36名中6名が名を連ねているのである!とんでもないところだな豊島区は。

次に「チベットの独立と自由を支援する草莽全国地方議員の会」に移ろう。総勢66名で、内訳は関東51、関西6、甲信越1、東海2、東北1、中・四国3、九州2だった。やはり関東に一極集中(77%)していて、北海道は0である。北海道の議員は仲間外れにでもされているのだろうか。

さて、この結果をどう評価すればいいのだろうか。関東への偏りが激しすぎる気もするのである。おそらくは人的ネットワークの関係なのだろう。「集英社問題の会」参加者41名(内訳:関東29、関西3、甲信越2、東海3、東北1、中・四国2、九州1)のうち、代表、事務局長をはじめとする21名が慰安婦の会に参加している。また、チベットの会には11名が参加している。また、「慰安婦の会」と「チベットの会」に共通して参加している人間は49名であり、何らかの人的ネットワークが構築されているのは確かであろう。

ただ、人的ネットワークだけでは説明がつかないような気もするのである。というのも、「慰安婦の会」も「チベットの会」も抗議文に名前を連ねるだけであるなら日本会議などのネットワークなどを使えばもっと人数が増えてもおかしくないと思われるからである。会に名前を連ねたからといって、実質的な活動を行う必要などない*10わけだし、会に名前を出すことをためらう何らかの理由があるのではなかろうかと想像できるのである。僕はそんなところに名前を出したら恥をかくという判断が働いているのではないかといったことぐらいしか思いつかないが、もしかしたら想像もつかない派閥やら何やらの人間関係なんかが存在するのかもしれない*11

なんだか山拓とは全く関係ない展開になってしまったけど、いろいろ調べてみると興味深いこともいくつかあった。つくる会の教科書採択で有名になった杉並区などは歴史修正主義ばりばりの議員がそれなりにいるのかと思っていたら、杉浦芳子ひとりであるのに対して、特にそのようなイメージを持っていなかった足立区や豊島区なんかが歴史修正主義者の巣窟だったりする。地方議会の選挙では歴史認識などはあまり大きな争点にはなりえないであろうことは容易に想像がつくが、ある地域で特定の歴史認識を持った人間が多く立候補し、当選するのはどのような理由からなのか興味がある*12

もう一つ興味深いのは日本会議正会員の分布が特定の県に偏っている傾向があることである。たとえば、四国は全体で33名の正会員がいるが、その内実に三分の二が愛媛県に集中している。愛媛には何らかの秘密があるのだろうか。また、九州では福岡・熊本・鹿児島の三県で全体の9割を占めており、佐賀県などは一人しかいない。このような県による偏りの原因は一体何なのだろうか。それらの県にはものすごく熱心な勧誘者でもいるのだろうか。それともボスがそういう人で、議員を続けるためには日本会議の会員になる必要があったりするのだろうか。なぞである。

今日は短くまとめるつもりだったのに調べ始めたらとまらなくなってまただらだらと書いてしまった。とりあえず、こういった議員はできる限り消えて欲しい。こういった議員を多く抱える自治体に住んでる人はこういった連中を当選させないように頑張っていただきたい。特に豊島区と足立区の人よろしく。

おまけ
集英社問題の会」と「慰安婦の会」の両方に名前を連ねている筋金入りの歴史修正主義者の皆さん。(肩書きは昨年7月現在)

関東
青木浩 茅ヶ崎市議・井上健 国立市議・犬伏秀一 大田区議・上橋泉 柏市議・鴨打喜久男 小平市議・上島よしもり 世田谷区議・木村徳 国分寺市議・古賀俊昭 東京都議・宍倉清蔵 千葉市議・白土幸仁 春日部市議・鈴木正人 埼玉県議・田中健 前大田区議・土屋たかゆき 東京都議・中田勇 新座市議・松浦芳子 杉並区議・三宅隆介 川崎市議・吉住健一 新宿区議・渡辺眞 日野市議

その他
井野兼一 前塩尻市議・新村和弘 浜松市議・高橋雪文 岩手県議・広重市郎 宇部市議・森高康行 愛媛県

*1:iza村で「山崎拓 落選運動」で検索かけたら3件だけヒットした。

*2:運動開始は去年の秋ごろなので、今回の拉致問題がらみではないみたい。

*3:それにしてもあんまり熱心に更新していないみたい。あんまりやる気がないのかな。

*4:「伝統的家族を守れ」とか強調してるのに自分をジャンヌ・ダルクに喩えるという奇妙な人

*5:漢字で書かないのは何故だろう?

*6:警察ともみ合いになってニュースになったあれである。

*7:その他にも、昭和天皇靖国に行かないのはA級戦犯合祀が理由であると記していた富田メモは捏造であると力説していたりもする。

*8:ちなみに共産党によれば、2002年時点で共産党の地方議員は4400人だそうだ。http://www.jcp.or.jp/jcp/2002_kaigi/2002-08-giinsyukai.html

*9:チベット歴史修正主義は直接関係がないのではないかと思う人もいるだろうけど、リンク先を見ればわかるように、数多の歴史修正主義系スター「文化人」達と一緒に活動している集団である。

*10:実際、穴八幡神社に来た議員は10名ほどだったらしい。

*11:詳しい人がいたら教えてください。

*12:もちろん理由などないかもしれないが